【対談】下腿義足ユーザーMさん
- Kyo
- 2021年2月6日
- 読了時間: 6分
更新日:2021年7月26日
義足や障害をテーマにした対談シリーズ・第三回目!
今回は下腿切断ユーザーであるMさんと対談しました。

石川信二(以下;石川) : Mさんはどうして義足になったんですか?
Mさん(以下;M) : 7年前に交通事故に遭いました。ミニバイクで通勤中に、信号無視の車が突っ込んできて足を大怪我しました。すぐに救急車で運ばれたのですが、Drから「最先端の医療を使えば(足を)残せなくはない」と言われ、残存を選びました。そこの病院では診られないといわれ、ドクターヘリで救急病院に搬送されました。
それから1か月ほどICUに入っていて、何度も手術しましたね。足を残すために身体中の皮膚をひっぺがして足にペタペタ貼って…めちゃくちゃしんどかったです。でも骨髄炎になってしまって、結局1年半くらい入院していました。
石川 : ということは、事故から1年半の間は足が残っていたということですか?
M : そうです。結局Drももうダメだと、切断するか・骨延長術をするか・健側の骨を血管ごと移植する方法にするか、選択を迫られたんですね。Drの説明や、調べてでてきた義足の明るい情報を受けて、「切っちゃってください!」と、超前向きに答えました。
…そのときは、義足のことでこんなに苦労するなんて、思いもしなかったですけどね(笑)
石川 : そうだったんですね。そこからどういう経緯で義足を作ったんですか?
M : 切断して3か月後くらいに専門施設で義足をつくってもらいました。2015年から半年入所して、退所したあとは半年通っていました。
石川 : 半年?!下腿義足だと長いですよね?!
M : そうですね。なんでかっていうと、全然義足が合わなかったんです。僕の場合、外傷性なので断端の半分以上が皮膚移植だったり、必要な軟部組織が無かったり、適合が難しいみたいなんですが、それで足に傷ができて、治ってはできてを繰り返して、足がズタズタになってしまって。一応そこの施設で仮義足を完結させて、本義足のチェックソケットも作ってもらったんですが、やはり傷だらけになってしまったんです。そこで「他の製作所はどうなんだろう?」と気になって、いろんなところに話を聞きにいきました。そこから製作所めぐりが始まりました。
今思うのは、ほとんどすべての製作所が、一人の義足ユーザーを大事にしていないと感じます。
石川 : 壮絶ですね…。
M : 業界大手の会社とか義肢装具業界の偉い先生とか、いろんなところで作ってもらいました。でもやっぱりダメで。あるPOからは、「君の断端は難しいからどうしようもない。断端の変動があるから合わなくなる。体重増減をしないようにしろ。」とか逆に僕のせいみたいに言われて。
そのあたりから、義肢装具業界やPOに対して疑問符がついて、「痛みや傷に悩まされることなく義足で歩けている人はなんとなく適合してラッキー」って感じなんだろうなと。まるでガチャですよ(笑)
石川 : ガチャね!(笑)人によりますよね。
M : 僕は何をどうあがいても義足は一生履けないんじゃないかとか、いっそのこと不完全な下腿を切り離して、大腿義足にしたほうがいいんじゃないかとか、精神的に不安定になっていた時期もありました。けど僕は大学で電子工学を学んだり、仕事では製品安全認証の技術者をやっていたりしたので、けっこう合理的な考え方も持っているんです。自分の足に合わせるために適合理論みたいなものを独学で調べたりして、時には東京から新潟に1年くらい通ってお世話になったこともありました。
石川 : そこではどうだったんですか?
M : 一時的に良かったときもありましたが、結局少しずつ痛みや不具合が出てきて最終的には大きな傷ができてしまい、そこの製作所が遠いという問題もあって行かなくなりました。そこからまた転々としましたね。
今は自分でメソッドを確立したので、自分で設計とオーダーをしています。いわゆるエンジニアリングですね。そして製造をPOに依頼しています。双方納得の上でやっています。
石川 : Mさんは、今後の義肢装具士に期待することはありますか?
M : アカデミックなところをベースアップして欲しいです。「個人のケースはこうでした」というケーススタディで終わるんではなくて、そこから横で繋がって統計をとって、教科書化するという必要性があるのではないかと思います。教科書には詳しく載っていませんが、下腿義足だけでもいくつもの適合理論があるので、一つの装具会社がいろんな方法・引き出しを持って、責任をもって、あるものすべて試すべきだと感じます。今は「報酬をもらって義足の適合を約束する」ということに対してコミットしていないと思います。
石川 : 僕もそう思います、同感です。それぞれのユーザーに沿った適合方法を提示してもらえるように、引き出しを多く持っていただきたいですよね。
質問なんですが、下腿切断だから軽くみられるってことはありますか?一般人や医療者問わず。
M : 軽く見られるのは日常茶飯事ですね。義足の適合が良好だと、一見普通のひとなんですが、ひとたび適合が悪いときとか、適合するまでの苦労とかは理解されないですね。世間とのギャップを感じています。
石川 : それは辛いですよね…。あとは、スポーツをしている義足ユーザーをどう思います?
M : ふたつの局面があるなぁと思います。ひとつは希望っていう良い面と、反対に負の面ですね。スポーツをしていない義足ユーザーが劣っているように見られてしまう、根深い問題がありますね。身体の条件やいろんな事情でスポーツができない人、日常生活すら困窮している人もいる、ということを、セットで発信して欲しいですよね。
石川 : そうですよね。義足のことを知らない人は、「義足を履けば跳んだり走ったりできる」って勘違いをする人もいますから。僕はもうスポーツはお腹いっぱいで。(笑)メディアはもっとリアルなところにも目を向けて欲しいなと思いますね。
M : 本当にそうですよね。石川さんがこうして対談をして発信する行動が、すごく説得力があると思います。ぜひ対談100人目指して欲しいです!応援しています。
石川 : ありがとうございます!この記事を多くの医療従事者に見て欲しいですね。
ではこのことを踏まえて、義足に携わるリハビリ医についてどう思いますか?
M : 僕自身はリハビリ医とほとんど関わっていないんです。ただ切断者の友人やお世話になったPOから話は聞いていて、それで思うのは、「リハ医って義足のことを知らなすぎじゃないか?」と。自分がみてきた患者だけで世界が完結しちゃっているなと思います。例えばパーツの選択だって、リハ医がどうこう指示する権利なんて本来ないはずですよ。もっと「当事者ファースト」を意識してほしいです。世界中にいる切断者の声を拾って、「どうしたら足を失ってしまった人がその後の人生を明るく生きられるか」そこを真摯に追い求めて欲しいです。それにはやはり前提として、幅広い視野と知識、情報は必須ですよね。引き出しが狭いのに偉そうな態度を取るなんてあり得ません。
石川 : なるほどね…。POにしろDrにしろ、いろんなことを吸収して欲しいですよね。
最後の質問になりますが、Mさんが両大腿切断をしたら、義足で歩きたいと思いますか?
M : 思います!!歩けますもん、理論的には。頑張れば歩けるなら頑張るしかないでしょ!僕は義足がどんなものでどんな可能性があるのかを知っています。可能性はゼロではないので、歩けることを目指して頑張ります。
石川 : おぉ~!即答!すごいなぁ!
義足ユーザーとは初めての対談でしたが、とても盛り上がりました。
Mさんありがとうございました!
ぜひまた対談しましょう!
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