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【対談】PO臼井二美男さん

  • 執筆者の写真: Kyo
    Kyo
  • 2021年3月7日
  • 読了時間: 9分

更新日:2021年7月26日

義足や障害をテーマにした対談シリーズ・第5回目。

今回は義肢装具士である臼井二美男さんと対談しました。





臼井二美男さん( Facebook

義肢研究員・義肢装具士。1955年、群馬県生まれ。
1983年より公益財団法人 鉄道弘済会・義肢装具サポートセンターに勤務。義肢装具士として義足製作に従事する。
1989年より日本で初めてスポーツ用義足を開発・製作。
1991年、切断者の陸上クラブ「ヘルス・エンジェルス」(現在は「スタートラインTOKYO」)設立。
2000年シドニー大会から5大会連続で選手のサポートでパラリンピックに遠征する。
著書『転んでも、大丈夫 ぼくが義足を作る理由』(ポプラ社)は第63回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に選定。
2020年、厚生労働大臣より「現代の名工」受賞。

石川信二(以下;石川) : 今回は内容の濃い、率直な話をぜひ聞かせていただきたいと思います!

 臼井さんは、テレビをはじめとして雑誌など多方面でご活躍されていますが、これだけ有名になったことで、良かったことと悪かったことはありますか?


臼井二美男さん(以下;臼井): 個人でやっているわけではなく職場に属しているので、仕事が増えればお客さんが増えて、職場が世の中に知れ渡るという意味で、職場に貢献できているというのが良いことかな。良いことのほうが多くて、あんまりマイナスには考えていないです。30年前は義足の選手もほとんどいなかったので、そういう意味では継続してやってきて、いい形になってきているような気がします。


石川 : なるほど。では、特に悪い面はないですか?


臼井 : そうですね。まぁ、忙しかったり担当のユーザーさんが多くいたりで時間外労働になることもありますけど、好きでやっている仕事なのであまり辛いとは思っていないです。


石川 : やっぱり仕事量は増えましたか?


臼井 : いや、最近は減りました。コロナのこともあるんですけど、若い人を育てないといけないので担当を変わってもらうなどをして、若手の育成をしています。育成といっても、手取り足取りという感じではなく、一緒に見て・経験して覚えるというのが必要ですね。


石川 : なるほど。それに関連した質問ですが、義肢装具士の技術のばらつきはどうですか?


臼井 : 確かにありますね。仕事に就いて間もない頃は失敗もするし未熟だし。あとは会社にもよりますね。会社でサポートしてくれるところもあれば、場所によっては「義足担当は2人だけ」とかもあります。そうなると、ベテランさんやずっと見ていた人がいなくなったときに困っちゃいますよね。


石川 : 全国的にみて、義足が履けないとか合わないとかっていう人はたくさんいらっしゃいますよね。


臼井 : うちの職場でも、なかなか適合しないとか作り直しが必要なこととか、結構あります。じゃあ誰がそういう人かと言われると難しい話です。下腿切断で、見た目はスムーズに作れると思っても難儀になる場合もあれば、断端が火傷していて皮膚状態が悪い人が比較的良かったりすることもあって。

 一番良いのは、経験が豊富な義肢装具士に見てもらうのが、やはりショートコースになると思います。


石川 : うーん…。知識や技術を一定水準にするっていうことは難しいですか?


臼井 : そうですね。企業によって使う部品やソケットの形式などを統一するといったことはできると思うのですが、“適合”となると一人ひとりケースが違うので…。あとはその人の感性や性格が違うので、「これはこう」というのはなかなか無いです。ケースバイケースで、その人の切断端や性格、仕事で求めるものなどを総合的に捉えて、それをモノに還元できるかどうかですね。そうすると、経験が重要ですね。


石川 : モノではなくヒトに対してなので、そういうところが難しい要因なんですかね。


臼井 : そうですね。(義足は)身体につけるものですから、両方を想像して、その人の要望に応える形に持っていく必要があります。


石川 : なるほど。臼井さんは30年以上義肢装具士として働いて、延べ3000人以上見ていると記事で拝見しましたが…


臼井 : 僕が担当したのは4、500人です。3000というのは新作の数で、修正も含めると6000くらいですね。お金にならない修理とかも含めるともっといくのかな。「もうばっちりだね!」と話したその日の夕方に「やっぱり痛いです…」と電話がかかってくることもあります。その都度見るしかないですし、そういうのを含めてサービスですからね。


石川 : 義足は作ったら終わりじゃないですもんね。病院だと、義肢装具士は週に1度しかいなかったりすると思うので、なかなか簡単には調整・修理できませんよね?


臼井 : そうですね。特に営業の人は、型を採るくらいはなんとかできても、細かい修正だったりその場の対処法を知らなかったりすると、あまり解決しないまま義足を履かされちゃうことになりますね。限られた時間でやるのはなかなか大変です。


石川 : 臼井さん自身、適合させられなかった患者さんはいましたか?


臼井 : 入社して5年くらいのときは先輩から引き継いだ患者さんをみていて、「担当を先輩に戻して欲しい」と言われたこともありました。他にも、傷ができて「もうこんな義足履けるか!」と言われたこともありました。自分の中に対応する技術がなかったんですね。


石川 : そういうこともあったんですね。

 今後の義足業界はどう発展していきますか?


臼井 : 義足業界…あんまり変わらないと思います。使うパーツは進化して、膝継手や足関節がマイコンになり…材質が柔らかくなったり軽くなったりとかはすると思います。昔はシリコンや完全吸着みたいなライナーもなければピンもなく、選択肢が少なかったんですね。ですが、“つくる”という点では変わらないかと。


石川 : ソケットって、これからも変わらないですか?


臼井 : 基本的には人に依存する形になると思います。教科書や文書が新しくなっていたとしても、それを読んで急に腕が上がることはないです。ベテランで経験があり知識がある人がやれば、短い時間である程度適合させられるかと思います。


石川 : では、これから義肢装具士を目指す人に一言お願いします。


臼井 : 「歩けるようになりたい」という想いがある人に、最後まで付き合う執着心や、その人に対する想像力…そういうものを持つ人を目指して欲しいです。逃げないでとことん付き合い、二人三脚で、お互い信頼関係を築けるようになって欲しいです。


石川 : 歩きたいという想いについてきてくれる人じゃないと、ダメですね。


臼井 : でも石川さんは難しいですよ!石川さんみたいに…両足短いだけでなくて、関節の動きも少ないし、普通は車いすが当たり前になると思うんです。

 石川さんの場合は、最初は安全をとっていても、歩けるようになって断端や関節が変化して、じゃあ次はコンパクトなものにしようとか、その人の進歩に合わせてより快適なものにするといったように、期間はかかりますよね。履く人も知識と経験が生まれて、「この義足だったら歩ける!」と思えるようになりますし。


石川 : “義足寄りの身体”になっていくというか、そういうものは時間が経たないと芽生えてこない感覚ですね。リハビリが終わって実生活に戻ってからじゃないと、辿り着けなかったと思います。


臼井 : 石川さんの凄いところは、自ら突破しているところですね。あなたは車いすでしょうねというのを、「自ら突破してやろう」「義足を履いてやるぞ」という想いで臨んで、根気よく取り組んで、なおかつそれが成果として出ているじゃないですか。義足は作るだけでなくて、歩かないと、歩く努力をしないとダメですからね。辛抱強さをもって自分を変えている、その精神力が歩きに出ていると思いますよ。


石川 : …臼井さんに言われると嬉しいですね。(にやける)


臼井 : いやいや、本当に。うちにもたくさん義足ユーザーはいますが、リハビリ中はスタッフがついていても、帰って半年経つと車いす多用しているという人もいますから。車いすは移動が速いですしね。石川さんの「とにかく歩いてやろう」っていう意気込みは素晴らしいと思います。


石川 : ありがとうございます。

 臼井さんは両大腿を切断したら、歩きたいと思いますか?


臼井 : 思うよ。片側股関節・片側中断端だったら…歩くチャレンジはすると思います。


石川 : おぉ~。実際にそういう条件の方はいましたか?


臼井 : いましたね。だけど、ひとたび退院してしまうと見えなくなって、一年後に会った時は完全に車いすということもあります。

 今はSNSで発信できるからこうやってやりとりができて、石川さんはそれを利用して頑張っているのは面白いですよね。発信するからには責任がでてきて、自分も努力しないといけないからね。


石川 : そうですね。ブログを発信していろんな人に見てもらいたいと思っています。

 両大腿義足で歩くって、どういうところが大変だと思いますか?


臼井 : 両大腿の場合、片方が膝折れするともう片方もその影響を受けて、転んだときは「抱っこで持ち上げられてお尻から落とされる」みたいな衝撃で、片足がある人よりも数倍の危険性をはらんでいますよね。それを覚悟の上でリハビリをやりますし、常に転ぶ要素を持っているという精神が本人にないといけないですよね。

 うちの施設では両大腿切断を20人ほどみましたが、杖を持たずに歩いている人は5人くらいで、いずれも中断端以上です。


石川 : やっぱり断端の長さは重要ですよね。


臼井 : 義足で歩くうえでのエンジンですから、断端が長いほうが有利ですね。短い断端だと短いストライド・歩幅になりますし、それで長距離歩くとなるとエネルギー消費が激しくて、疲れるし心臓にも負担がきます。


石川 : そうですね。その通りですね、よく分かります。

 臼井さん、僕でも走れるようになりますか?(笑)


臼井 : うん、なると思う。このままモチベーションを維持して歩くトレーニングを続ければ、できるようになると思います。


石川 : ホントに!?期待しちゃいますよ。新たな目標かなぁ(笑)


臼井 : やりましょう、本当に。ぜひやってみたいですね。多分挑戦するとまたソケットの調整が必要になって、作る側も勉強になるなぁ。低いところから(義足長を短くして)はじめて、跳ねたりゆっくり小走りが出来れば…。歩くだけでなく走れるなんて、石川さんレベルで走る人を僕も見たことがないです。


石川 : 「歩くのはもういいや、次は走りたい」ってなったらお願いします。(笑)

可能性はゼロじゃないことは、今回自分が歩けるようになって分かったことなので、次の目標は走ることかな?(笑)

 今回は本当にありがとうございました!とても楽しい対談でした。


臼井 : ありがとうございました。




今回の対談の中で、歩けるようになりたい人に「最後まで付き合う執着心や、その人に対する想像力…」というお話がありました。このことは、義肢装具士だけでなく、義足に携わるすべての医療従事者に必要だと思いました。


臼井さん、ありがとうございました!また是非対談しましょう。

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